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News Release

超解像イメージングで細胞内の微細構造を視続ける

17 August 2017 Institute of Transformative Bio-Molecules (WPI-ITbM), Nagoya University

〜生命科学研究者にとって待望の超耐光性蛍光標識剤を開発〜

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)(拠点長:伊丹 健一郎)の山口 茂弘(やまぐち しげひろ)教授、多喜 正泰(たき まさやす)准教授、WANG Chenguang(わん ちぇんがん)研究員、佐藤 良勝(さとう よしかつ)講師、深澤 愛子(ふかざわ あいこ)准教授、東山 哲也(ひがしやま てつや)教授らの研究チームは、極めて褪色に強い蛍光標識剤の開発に成功しました。超解像イメージングを利用する生命科学研究者にとって待望の技術です。

STED顕微鏡は、2014年のノーベル化学賞に選ばれた超解像顕微鏡技術の一つで、従来の蛍光顕微鏡の限界を大きく上回る空間分解能で生命現象を可視化できる画期的なイメージング手法です。しかし、超解像顕微鏡には強いレーザー光の照射が必要で、撮影中に蛍光色素が速やかに分解し、褪色を引き起こしてしまうという大きな問題がありました。蛍光標識した細胞を超解像レベルで連続的に撮影できれば、細胞内の微細構造の三次元的なイメージングや、細胞小器官や分子の動きをつぶさに長時間にわたって観察できるようになります。このような理想の超解像イメージング技術の達成には、圧倒的に高い耐光性の蛍光標識剤の開発が不可欠であり、生命科学研究の分野で待望されていました。今回、研究チームは、生体分子と結合できる超耐光性蛍光標識剤「PhoxBright 430 (PB430)」を開発し、STED顕微鏡の連続撮像を実現しました。この蛍光標識剤を用いれば、これまで知られざる細胞の微細構造や機能に関する情報を高精細かつ高精度で取得でき、生命科学研究の飛躍的な進展や、新たな顕微鏡技術の開発への貢献が期待できます。

本研究成果は、米国化学会の学術誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン版で掲載されました。

【本研究のポイント】

■  強いレーザー光照射下でも褪色しないタンパク質の蛍光標識(ラベル化)技術が求められていた。

■  既存の蛍光色素に比べてはるかに優れた耐光性を有する蛍光標識剤PB430を開発し、STEDイメージングの繰り返し撮像を可能にした。

■  PB430で蛍光標識された細胞内構造のスライス画像を重ね合わせることにより、超解像の三次元画像を得ることに成功した。

■  従来の蛍光色素との耐光性の違いを利用した、新たなマルチカラーイメージング手法を確立した。

【研究の背景と内容】

超解像顕微鏡とは、従来の光学顕微鏡の理論限界値よりもさらに微細な構造を蛍光観察できる顕微鏡です。2014年には超解像顕微鏡法を開発した3名の研究者がノーベル化学賞を受賞しています。その一つである誘導放出抑制 (stimulated emission depletion; STED) 顕微鏡は、蛍光分子を励起するためのレーザーと、脱励起して蛍光放出を抑制するSTEDレーザーの二種類を使用します。超解像画像を得るためには、強いSTED光照射が必要ですが、同時に蛍光色素の褪色も促進されてしまいます。このような中、以前研究チームはリンと炭素原子で橋かけした構造をもつ C-Naphoxを開発し、これが極めて高い耐光性をもつことを見出しました(S. Yamaguchi et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 54, 15213)。C-Naphoxは既存の蛍光色素ではできなかったSTED画像の連続撮影を可能にしましたが、任意の細胞内構造体の可視化にはいたっていませんでした。

そこで同研究チームは、C-Naphoxの構造を基に改良を重ね、第二世代としてより実用的な超耐光性蛍光色素PhoxBright 430 (PB430)を開発しました。PB430はC-Naphoxが有する極めて高い耐光性という性質を保持しつつ、①抗体などの生体分子と共有結合が可能、②水溶性が高い、③水中でもよく発光する、④吸収極大波長と蛍光極大波長の差(ストークスシフト)が大きいなどの特性をもっています。抗マウスIgG抗体にPB430を結合(標識)させても色素本来の性質が保たれていたことから、この化合物は蛍光標識抗体として利用できることがわかりました。

耐光性に優れた蛍光標識抗体は、従来、色素ではできなかった蛍光イメージングを可能にします。例えば、細胞構造の三次元(3D)可視化があります。XY軸で撮影した画像をZ軸方向にスキャンし、得られる断層画像を再構築しますが、従来、色素を用いてSTEDイメージングを行った場合には、断層画像の撮影中に色素が褪色してしまいます。このような褪色を抑えるためには、通常、細胞を褪色防止剤で処理する必要がありますが、PB430を用いることによって、特別な処理をしなくても容易に三次元超解像イメージング画像を得ることができました。

次に、研究チームは、耐光性を利用した新たなマルチカラーイメージング(多重染色)技術を考案しました。前述のとおり、従来の蛍光色素は、一枚のSTED画像を取得しただけでも著しく褪色してしまうため、二回目のスキャンではほとんどシグナルを得ることができません。これを逆手に取り、異なる二つの細胞内構造の染め分けを試みました。すなわち、PB430と類似の光学特性を有しながら、すぐに褪色してしまう蛍光色素とPB430を組み合わせたマルチカラーイメージングです。

例えば微小管注1)を構築するα構チューブリン注2)をPB430の蛍光標識抗体で、中間系フィラメント注3)(長い線状のタンパク質の)であるビメンチン注4)をAlexa Fluor 430の蛍光標識抗体でそれぞれ染色します。この状態で同一視野のSTED画像を二枚連続で撮影すると、一枚目の画像では二種類の色素からのシグナルが観測されますが、二枚目の画像からはPB430からのシグナルしか得られません。この画像は微小管の構造に相当します。次に、一枚目から二枚目の画像を差し引くと褪色したAlexa Fluor 430の蛍光、つまりビメンチンの構造が見えてきます。ここで重要なのは、一対の励起レーザーとSTEDレーザーのみでマルチカラーイメージングを実現できたということです。従来のマルチカラーSTEDイメージングでは、励起および蛍光波長を考慮する必要があるため、利用できる色素の組み合わせが限られていましたが、本手法では原理上あらゆる色素と組み合わせることができます。

【まとめと今後の展望】

本研究では、超耐光性蛍光標識剤PB430の開発に成功し、これを用いて染色した細胞がSTED 顕微鏡観察下においても繰り返して撮像できることを明らかにしました。超解像レベルでの三次元画像や耐光性を利用したマルチカラーイメージングを簡単に取得することが可能になったことから、超解像顕微鏡の利用がますます広がっていくものと考えられます。多くの研究者がPB430を手にすることによって、生命科学研究の進展や新たな顕微鏡技術開発につながっていくものと期待されます。

【用語解説】

注1) 微小管:細胞内に見られる直径25 nmほどの最も太い細胞骨格要素。細胞の運動や形の保持に関与する。

注2) α胞チューブリン:微小管を構成するタンパク質の一つ。β-チューブリンと1:1で結合した重合体(ヘテロ二両体)を形成する。

注3) 中間系フィラメント:細胞骨格を構成するフィラメント成分の一つ。アクチンフィラメント(直径7~9 nm)と微小管の中間の太さ(直径10 nm)である。

注4) ビメンチン:代表的な中間径フィラメント。繊維状タンパク質を単量体とする。

http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/research/2017/08/JACS-PB430.php

Attached files

  • PhoxBright 430 (PB430)を用いた超解像三次元画像の構築


  • PB30の構造


  • 超耐光性蛍光標識剤 PB430の特徴


  • α-チューブリンをPB430の蛍光標識抗体で、中間系フィラメントであるビメンチンをAlexa Fluor 430の蛍光標識抗体でそれぞれ染色した画像


  • PB430の開発チーム


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